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松坂大輔 ×こうじょう雅之 

スポニチ 特別対談

”野球小僧”

”元野球小僧”

※2022/2/15 スポニチ アネックスより引用

松坂大輔氏(41)が武人になった──。

スポニチ本紙評論家を務める松坂氏が引退記念にと、京都出身の水墨画家で「武人画師」としても知られる、こうじょう雅之氏(43)に依頼した「武人画」が完成。2枚の作品が松坂氏に手渡されるとともに、「野球人」と「画家」による異色の対談が行われた。

 2人が実際に顔を合わせるのは初めて。松坂氏側から、引退する際にお世話になった人へ送るものに、何か喜んでもらえるものはないかと考え、こうじょう氏に依頼した。その作品2点が、こうじょう氏から、松坂氏へ手渡された。

 こうじょう雅之氏(以下、こうじょう)「『松坂大輔確信一投之図』は、これから投げようとするところ、もう一つは、『松坂大輔一球渾身之図』です。

投げ終わりの渾身の力が込められたものです。色々と体の動きを見ながら、できるだけ近い状態を絵にしました」

 松坂大輔氏(以下、松坂)「原画を見させてもらった時と受けるインパクトの大きさが全然違いますね。僕の投球フォームそのものだと思います。

僕の投球フォームの中でも、“これが松坂のフォームだな”と分かるポイント。本当にありがとうございます」

 こうじょう「左手のグラブの位置一つだけで全然印象が変わるので、ほぼ(所属した)全部の球団のフォームを見ました」

 松坂「左手の使い方、グラブの使い方、僕そのものだと思います。投げ終わりの絵(一球渾身之図)なんか、よく真似もされましたので」

 こうじょう「本音を言えば、描きたくなかった(笑い)。松坂さんのことは、みんな知っているので。

相当コアな松坂さんファンの方もいると思うので、何これ、と思われないようにと思っていた」

 松坂「本当にありがとうございます。デザインも他にないものです。(この作品が入った引退記念品を)渡したみんなに喜んでもらっています。本当に引退の記念に作っていただいて感謝いたします。想像のはるか上で、きました。渡した人たちの反応もうれしくて、本当にお願いして良かったと思います」

 2人には接点がある。こうじょう氏は、近江(滋賀)の一員として1996年夏の甲子園に進んだ。松坂氏は言うまでもない。横浜高(神奈川)のエースとして、1998年の甲子園で春夏連覇を達成した。

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こうじょう「小、中、高校と野球をやっていました。高校は近江高校で96年の夏の78回大会に出ています」

 松坂「学年で言えば、2つ上ですね。その年、横浜高も出ていますよね。近江は僕たちの98年も出ていますよね。よく覚えています」

 こうじょう「甲子園で春の大会で見る以前に、後輩から“すごいのがいる”と。春に出てきて、150キロを超える投手がいると。高校野球という一つの時代の切り替わりになったんじゃないか。一人の150キロ投手が現れたら、そこから150キロ投手がたくさん現れたように、時代が大きく動いた瞬間でしたね。地元が京都なので、夏の決勝は(京都代表の京都成章が松坂にノーヒットノーランを喫し)それはそれでみんなで大いにわきました。感動と言うより、自分たちがやってきた野球と異質なものがこれから行われるんだろうと思ってみてました」

 話は1枚の絵に魂を落とし込むことへの思いへと発展した。松坂氏は昨季限りで現役を引退、野球評論家として、野球を言葉にする難しさを感じている。分野は違えど、共感するものがある。

 こうじょう「そもそも武人というのは“覚悟を持った人”をイメージして書いている。松坂さんは覚悟を持った人、そのものだった。投げ抜いて、生き抜いて来た人が、最後にあの引退の投球をみんなが見て、初めて“この人はこんなに戦ってきていたんだな”と思っただろうし、僕も再度、認識した。描こうとなった時にまったく違和感がなかった」

 松坂「実際どういう作品が出来上がってくるのか楽しみだった。サンプルを見させてもらったが、実際に出来上がったものを見た時のインパクト、衝撃の方が大きかった。僕もまだこういう立場(野球評論家)になって新しい人生が始まったばかりですけど、その人の印象をどう見ている人たちに伝えるために、どう仕上げていくか。取材対象の人をもっと深く知ってもらうためには、どう話したり、表現するのがいいかと考えています。でも、似ているとかは言えないですね。それまで積み重ねてきた、長さも重さも違いますから。ただ実際、今回、引退記念で作ってもらう話をさせてもらう中で、僕の思いというものを、作品にしてもらう、実際に出来上がってきたものを見て、伝え方というんですかね、人の思いを何とか見ている人や聞いている人に伝わるように仕事をしていきたいと思いますね。言葉で伝えられるような人間になりたいですね」

 松坂氏は常々、「色々な分野の一流の人の話を聞いてみたい」と話してきた。こうじょう氏の話を聞く、その目は輝いていた。

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西武、レッドソックスなど日米で活躍し、昨季限りで現役を引退した松坂大輔氏(41)が「武人」になった。スポニチ本紙評論家を務める松坂氏が引退記念にと、京都出身の水墨画家で「武人画師」としても知られる、こうじょう雅之氏(43)に依頼した「武人画」が完成。2枚の作品が松坂氏手渡されるとともに、「野球人」と「画家」による異色の対談が行われた。話は兄弟論に発展、松坂氏は、今後の野球界での活動へと思いをはせた。

 2人には兄弟がいて、同じく野球をやっていたという点でも、境遇は似ている。こうじょう氏から、そんな兄弟の関係性への話が向けられた。

 こうじょう雅之氏(以下、こうじょう)「僕も野球一家で、自分の兄は4歳上で、それこそ小、中学校と日本代表になって、平安高に行って亜細亜大学に行って、ドラフトにもちょっとかかった。僕は兄と比較対象になりながら、裏でやっていた。松坂さんは、(12月4日の)引退セレモニーで、“小さい時から常に僕と比較され、苦しい時期を過ごしたこともあった弟にも感謝しています”と話されていた。私の兄もそう思っていたのかなと考えさせられました」

 松坂大輔氏(以下、松坂)「高校時代から思っていましたね。本人たちが望む、望まないに関係なく、比較されるようになって。小、中学校の時は、弟の方がうまくなると言われていましたからね。なおさら(兄の)僕が高校3年生の時にああいう形になって、高校1年生の弟は相当苦しい思いをしてるんじゃないかと、高校時代から思っていました。僕は僕で、小、中学校とそう言われてきたので、すごい悔しくて、そうなるもんかと思ってやってきた。扱われ方の違いが出た時に心配はしましたね」

 こうじょう「弟の方がうまくなると僕も言われたことがある。僕は自分の性格的にも、人生的にも、表より裏で色々とやるのが好きなんですよ。生き方自体は違うと思いますが、(松坂さんの)弟さんも今、スポーツメーカーに勤められている。裏方じゃないですか。すごい共感を持っている」

 松坂氏、こうじょう氏は互いに聞きたいことをぶつけ合った。

 松坂「作品を作る上で一番大事にしていること、すごく抽象的ですが、聞いてみたいですね」

 こうじょう「僕は結構、こだわっていることはあるのですが、一番初めに出来上がったものは、自分の息子に見せるんですよ。これは4歳の時から息子に見せて、今3年生なんですけど、息子がかっこいいと思うものを描くということは続けている。家族が好きだといっているものを世の中に出す。それは一番大事にしている。感情面で言うと、人の心が動く画ですかね。怖いとか、驚きとかも含め、人の心を動かせる画を描いた時に、人って感動するのかなと。見た目の良さももちろん大事ですが、どう思って仕上げていくかで、(作品は)生きてくると思う」

 松坂「それはこの作品を見ていたら伝わります。強いエネルギーを感じると一番最初に思いました」

 こうじょう「松坂さんは今までも何度も質問されていると思いますが、現役の選手と今の立場では大きく違うと思います。今は何を感じてますか」

 松坂「現役ではなくなった自分に何ができるのか。野球人気が低下していると言われていますし、単純に野球を知ってもらう、野球はいいものだ、楽しいものだ、と知ってもらう。遊びでもいいから野球にかかわってくれる人たちを増やしたいですね。そのために、自分に何ができるのかは考えています。選手ならそのアピールの仕方も簡単だったと思うのですが。立場が変わると難しいですし、晩年はけがばかりしていましたし、僕が実際に投げているところを知らない子供たちが多いと思っているので。そこを含め、新しい野球ファンを増やしていくにはどうしたらいいかを、毎日考えていますね」

 

 こうじょう「熱いものがありますね」

 

  松坂「今は、分からないことだらけなのが、逆に楽しいというか。まだまだこんな知らないことがあるんだな、と思いながら取材させてもらっている。選手として、たくさん取材も受けてきましたが、立場が反対に変わると、こんなに難しいものなのかと思っています。選手でいることの方が楽です(笑い)だから本当に、現役の選手たちには、できるだけ長くユニホームを着てほしいなと思います。僕もボロボロになって、しがみついてやってきましたけど、みんなにもできるだけ長くユニホーム、現役でいてほしいと思います」

 こうじょう「本当に貴重な話の連続、ありがとうございました。また、世の中の状況が許すようになったら、食事をしながらゆっくり話をしたいですね」

 松坂「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 松坂氏は、こうじょう雅之氏のこの作品が描かれたパッケージに入った「高級焼酎」を、お世話になった関係者に渡している。そんな感謝の気持ちを、こうじょう氏の画が際立たせている。

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(左写真)

松坂氏が、毎年お世話になっている方々へ贈られる高級焼酎。

今回は、引退記念として外装デザインを、こうじょう氏が依頼され

​題字から外箱の材質に至るまで、全てを手掛けた唯一の、特別パッケージとなっている。

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◇松坂 大輔(まつざか・だいすけ)1980年(昭55)9月13日生まれ、東京都出身の41歳。横浜高3年時に甲子園春夏連覇。98年ドラフト1位で西武入団。99年に新人王、01年の沢村賞獲得まで3年連続最多勝。07年からレッドソックスなどMLBでプレー。15年にソフトバンクで国内復帰、中日、西武に所属し昨季限りで現役引退。NPBで114勝65敗1セーブ、防御率3・04。MLBでは56勝43敗1セーブ、防御率4・45。2度の五輪に出場。WBCでは06、09年に出場し連続MVPで日本の連覇に貢献した。

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